タレントマネジメントとは

タレントマネジメントとは、会社と事業を成長させ価値を生み出すため、タレント(従業員)の経歴や能力を分析・把握し、戦略的且つ効果的な人材の育成・配置を行うことを言います。
近年では、ITの進化や市場のグローバル化に伴う経済環境の目まぐるしい変化により、「終身雇用制度」や、「従業員は会社のために身を粉にして働くもの」といったような日本の従来のシステムや古い考え方では通用しなくなってきている現状があります。
会社や事業に高い価値を生み出すためには、従業員1人1人の能力・適正をしっかり分析・把握し、適材適所に配置することで高いパフォーマンスを発揮してもらうことが重要です。これを実現することが、従業員のモチベーションアップにも繋がり、結果として会社・事業そのものを成長させることに繋がると言えます。

タレントマネジメントが注目される背景

労働意識の多様化

これまでの多くの日本企業では、「長く勤めることが大事」「年功序列の出世」といったような、「従業員は会社のために」という働き方が主流となっていました。また、労働者の意識としてもそれが当たり前で、「新卒で入社したら定年まで勤めあげる」という理念のようなものが常識でした。
しかし近年においては、市場環境の急激な変化に伴って、従来の概念で会社を運営していたのでは通用しなくなってきました。同時に、働く人の意識にも変化が訪れ、「働くことの楽しさ」「やりがい」「一個人としての社会的意義」といった本質的なものを求める人が増えてきています。
これに牽引されるかのように、国では「働き方改革」が打ち出され、子育て期間の時短勤務、育児休暇や在宅勤務など、様々な働き方が可能になってきています。
市場環境の変化で求められるニーズに対応し、会社としての価値を上げるためには、働く人の能力を最大限に引き出し、最適な配置をする「柔軟できめ細かい」戦略が必要です。タレントマネジメントシステムはこれを実行するために最適なシステムと言えます。

ビジネスを取り巻く環境の変化

IT技術の著しい発展によって、世界市場そのものも目まぐるしく変化し、予測がつきにくくなってきています。また、日本の企業の海外進出や、国内での外国人受け入れもごく当たり前の流れになりつつあり、日本を含めた世界の経営環境はまさに流動的と言えます。
この目まぐるしい変化に追いついていくためには、従来のマネジメント手法では立ち行かなくなってきつつあり、経営する側として、働く側の人の能力・適正・その人を取り巻く環境などをきめ細かく分析・把握し、最適な人材配置をすることで、働く人のモチベーションを引き上げ、パフォーマンスを最大限に発揮してもらうことでの、企業としての成長が求められる時代になってきています。
こういった状況を背景に、2011年頃から、アメリカ発の手法である「タレントマネジメントシステム」を導入する国内企業が増え始めました。

労働力の減少

日本では少子高齢化が深刻となっており、働ける人口の絶対数が減っています。これに加え、「残業してでも成果を上げる」「合わない環境でも我慢する」などの従来の働き方に対して、そこまで無理をしてまで仕事を求めない、という若者も増えてきました。日本国内ではこれが深刻な問題となり、限られた人材で最大限の効果を上げることによって、会社を成長させなくてはならなくなってきたのです。
このためには、今いる従業員1人1人の経歴や能力を見直し、その人に合った教育計画を立てて実施し、最大限のパフォーマンスを引き出すという施策に注力することが重要課題となってきています。

タレントマネジメントの目的

効果的な経営戦略

企業を存続させ、事業を発展に導いていくためには、会社としての目標を設定し、それを達成させるために中期的・長期的な計画を立て、抜かりのない準備をし、運用していくための「経営戦略」が欠かせません。またこのためには、物や金、人を効果的に運用していかなければなりません。
物や金はもちろんですが、人も会社としての「財産」であり、「資源」です。経営戦略とは会社のために立てるものですが、「会社よがり」な戦略になってしまうのでは、従業員の誰も耳を貸さず、理解もしてくれません。物・金・人の中で唯一、意志を持つのは「人」です。この「人」を読んだ上で、従業員がついてきてくれるような戦略を立てることが、「効果的な経営戦略」を可能にします。

人事戦略の最適化

能力のある優秀な従業員を確保するためには、まず、従業員の経歴や能力を分析し、把握することが必要となります。これにより、優秀な能力を持った従業員に対してその能力をさらに向上させる教育や、そこから派生して伸ばすことのできる教育計画を立て、実施していきます。また、その従業員を取り巻く環境をしっかり把握し、どういった環境で最高のパフォーマンスができるのか、ということも検討し、柔軟に対応します。その上で、最適なポジションに配置することで、従業員のポテンシャルは最大限に引き出されるようになります。
「人事戦略の最適化」は、会社としての立場を優先させるものではありません。会社としての経営戦略に基づいた人事戦略を立てたら、それをさらに「従業員」ベースに落とし込むことで、より効果を発揮する人事戦略とすることができるのです。

迷走しやすい「タレントマネジメント」の真の目的

タレントマネジメントとは、「タレントの経歴や能力を分析・把握し、戦略的且つ効果的な人材の育成・配置を行うこと」です。このため、従業員を分析・把握し、最適な教育を受けさせること自体が目標となってしまいがちであることも事実です。
タレントマネジメントの真の目的とは、あくまでも「会社・事業の成長、発展」であり、タレントマネジメントはその手段の1つです。従業員が最適な教育を受け、キャリアアップすることは大変すばらしい事ですが、それだけが独り歩きしてしまうのではなく、会社としての「経営戦略」と「人事戦略」を常に強固に結び付け、連携して実施することが何より大切です。

タレントマネジメントの運用手順

タレントマネジメントの実施において、今では専用のシステムが数多く出回っています。しかし、企業の業種や会社の規模によって、どれが最適なシステムであるかは変わってきます。「タレントマネジメント」を熟知しないで闇雲にシステムを導入しても、システムが独り歩きしてしまい、有効活用されないまま無駄になってしまいます。
ここではタレントマネジメントを簡単・明瞭に理解するため、聞き馴染みの深い「PDCAサイクル」に当てはめて説明します。

「Plan」目的・目標の明確化とタレントの分析・把握

「Plan=計画」では、タレントの経歴・能力・過去に受けた研修・現在のポジションでの評価・その人を取り巻く環境などを細かく分析し、その人物像をイメージしやすいように顔写真などをつけて1つの情報としてまとめ、一元管理します。以後はこの情報を逐一更新していくようにします。

「Do」不足の認識による人材の再配置・育成・拡充

「Do=実行」では、Planに基づいて洗い出した不足点やさらなる能力の向上を目指した最適な教育を実施し、そのタレントが最大限のパフォーマンスを発揮できる環境・ポジションに配置します。社内の人材でどうしても実行することが困難な場合には、必要に応じて新たな人材の確保も実施します。

「Check」実行した人材配置・活用の成果確認と改善点

「Check=評価」では、Doに基づいて配置・拡充したタレントの評価をし、実行する前の情報を更新します。これにより、タレント個人のスキルの管理として、会社側の人材育成の促進・資産価値の向上という、双方の点においてプラスに働きます。情報を整理したら、目標を達成するための改善点を洗い出します。

「Action」改善点を元にした再実行

「Action=改善」では、Checkによって明確化された改善点を実行していきます。実行する前に比べて、やるべきことがより明確になっていますので、タレントと情報を共有し、相互理解を深めながら向上の精度を上げていきましょう。
タレントマネジメントは1度の実行で終わるものではなく、このサイクルを繰り返し実施していくことによって、タレント・会社双方の価値の向上を目指していきましょう。

タレントマネジメントを導入する際の注意点

「タレントマネジメント」の本質をきちんと理解すること

タレントマネジメントは、「タレント(従業員)=資産」の価値を上げることによって、会社全体の成長・利益につなげるための施策です。これを実現するためには、「会社寄り」でも「タレント寄り」でも良い結果は出ません。会社としての経営目標と、タレントの能力向上を常に結び付け、現場責任者と連携しながら緻密に進めていくことが大切です。

「タレントマネジメント」を社内全体に周知すること

会社の経営戦略は、説明会などを実施しても浸透させることがとても難しいのが現状です。いくら会社側が新しいマネジメントシステムを導入したと告知しても、肝心のマネジメントしたい従業員の協力が得られなければ意味がありません。また、忘れてはいけないのが、タレントが所属する部署の責任者やチームリーダーの存在です。この人たち無くして、タレントマネジメントの成功はあり得ません。情報や計画について理解を得て、成功に導くためには、情報を見える化し、タレント本人と現場責任者、タレントマネジメントの運用者の3者で連携し、進めていくことが不可欠となります。
また、タレントが社内で浮かないように、且つ他の社員の円滑な協力を得るためにも、小さなサークルまできちんと会社としての方針の落とし込みを続けていくことが何より重要です。

「タレントマネジメントシステム」運用の専任者の配置

タレントマネジメントシステムの導入は、通常では会社全体での実施となり、これには大変な労力を伴います。これを1人や2人の人事担当者が、本来の業務の片手間でこなすことはほぼ不可能です。もちろん会社の規模にもよりますが、タレントをマネジメントするのであれば、このシステムを運用するのに最適な人材とそれをサポートする複数の人材を選出し、必要であればしかるべき教育を受けさせ、プロジェクトとして専属で進めていくことをお勧めします。その意味ではむしろ、ここからがタレントマネジメントの始まりと言えます。