障害者雇用促進法とは?
障害者雇用促進法とは、障害のある方に対して安定した職業提供をサポートする法律のことです。
正式名称は「障害者の雇用の促進等に関する法律」となります。
1960年に施行された「身体障害者雇用促進法」から始まり、数多の制度改正を経て現在に至っています。
障害者雇用促進法の概要
では障害者雇用促進法の『目的』『理念』『方針』『対象者』『事業主に対する措置』『障害者本人に対する措置』について詳しくご説明していきます。
障害者雇用促進法の目的
障害者雇用促進法が制定された目的は以下の通りです。
『障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置等を通じ
て、障害者の職業の安定を図ること』
つまり、障害のある方の自立を促し総合的にサポートすることで、安定した職業獲得の実現を目指す、という目的ですね。
障害者雇用促進法の理念
障害者雇用促進法の理念は、同法律第三条と第四条に定められています。
【第三条】障害者である労働者は、経済社会を構成する労働者の一員として、職業生活においてその能力を発揮する機会を与えられるものとする。
【第四条】障害者である労働者は、職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。
第三条では障害のある方も、他の経済活動を行っている人と同じように社会貢献を可能にしていこう!ということが謳われています。
そして第四条では、障害のある方も社会の一員として能力開発や自立に励もう!とノーマライゼーションの実現を目指しています。
障害者雇用促進法の方針
障害者雇用促進法には、その目的や理念を達成するため以下の3つの取り組みが行われています。
- 雇用義務制度
- 職業リハビリテーションの推進
- 差別の禁止と合理的配慮の提供義務
『雇用義務制度』には「障害者雇用率制度」と「障害者雇用納付金制度」の2つの制度があり、どちらも雇用の自由競争の中で、障害のある方が職業につけるよう各企業に協力を促す取り組みです。
『職業リハビリテーションの推進』とは障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、ハローワーク(公共職業安定所)などで、障害のある方に向けて職業指導、職業訓練、職業紹介を行うことで、安定した職業生活の実現を図る施策です。
『差別の禁止と合理的配慮の提供義務』とは会社の事業主に対して、障害がある方の採用や賃金などを障害のない方と同じように行わなければならない、とするものです。
詳しくは『障害者雇用促進法の事業主に対する措置』『障害者本人に対する措置』の項目内でご説明していきます。
障害者雇用促進法の対象者
障害者雇用促進法の対象となるのは『身体障害者』『知的障害者』『精神障害者』『その他障害者』で、そのうち雇用義務の対象になるのが『身体障害者』『知的障害者』となり、実雇用率算定の対象になるのが『精神障害者』になります。
判定基準
対象者の判定基準は『身体障害者手帳』及び療養手帳、各自治体が発行する手帳、精神障害者保健福祉手帳を持つ方となっています。
そのため、障害者手帳を持たない人は算定対象外になります。
障害者雇用促進法の事業主に対する措置
障害者雇用促進法は事業主に対しても『雇用義務制度』『納付金制度』という2つの制度を課しています。それぞれ詳しくご説明していきます。
雇用義務制度は「障害者雇用率制度」と「障害者雇用納付金制度」の2つの制度からなっています。
障害者雇用率制度
自由競争の雇用では、障害のある人の就職活動がどうしても不利になってしまう場合があります。
そこで、障害のある人とない人の雇用機会を均等にしましょう!ということを義務付けた制度です。
具体的な施策としては、民間企業、国や地方公共団体などの事業主に対し、障害者の方の雇用を規定された率以上になるよう義務付けています。この規定された率のことを『法定雇用率』と呼びます。
障害者雇用納付金制度
こちらは障害者雇用制度の法定雇用率を満たしていない企業などの事業主から、納付金を徴収する制度です。
納付金の位置付けとしては法律違反による罰金ではなく、法定雇用率を満たしている事業主と満たしていない事業主の間の経済的負担を小さくするための納付金となっています。
障害のある方の雇用に伴い、職場環境、設備、社員への呼びかけなどの特別な対応が必要になる場合もありますよね。そのため、事業主に対してある程度の経済・時間的負担が生まれる、と推定されています。
障害者本人に対する措置
障害者本人に対する法律的措置としては『職業リハビリテーションの実施』あります。
詳しくご説明していきます。
職業リハビリテーションの実施
職業リハビリテーションは障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、ハローワーク(公共職業安定所)などで、障害のある方に向けて職業指導、訓練、紹介を行うことで自立した職業生活を営むことを目指した制度です。
中でも障害者就業・生活支援センターでは、障害のある方専門のカウンセラーが常駐しており、適切な職業選択ができるようサポートしています。
障害者雇用の現状・課題・対策
では障害者雇用の現状はどうなっているのでしょうか?
『国・地方公共団体』『民間企業』に分けて見ていきましょう。
国・地方公共団体
国や地方公共団体では、障害者の雇用状況の不正計上があり、民間企業と比較すると障害者雇用が進展していない事実が明らかになりました。
現状
平成30年8月に障害者の任免状況について、再点検結果を公表したところ、多くの国・地方公共団体において、障害者雇用の不正計上があり、法定雇用率を満たしていない状況であることが明らかになりました。
(平成29年6月1日時点)
実雇用率 | 不足数 | |
---|---|---|
国 | 2.50% ⇒ 1.17% | 2.0人 ⇒ 3,814.5人 |
地方公共団体 | 2.40% ⇒ 2.16% | 677.0人 ⇒ 4,734.0人 |
この状況を受け、平成30年10月の関係閣僚会議では「基本方針」を決定し、取組を開始しました。
【基本方針】
①チェック機能の強化
②法定雇用率の速やかな達成に向けた計画的な取組
③国・地方公共団体における障害者の活躍の場の拡大
④公務員の任用面での対応等
課題
国や地方公共団体の障害者雇用の課題としては2点あります。
課題① 対象障害者の不適切計上の再発防止
課題② 精神障害者や重度障害者を含めた障害者雇用の計画的な推進
対策
国や地方公共団体の課題①に対する対策として以下の通りです。
- 報告徴収の規定の新設
- 書類保存の義務化
- 対象障害者の確認方法の明確化
- 適正実施勧告の規定の新設
また、課題②に対する対策として以下の通りです。
- 国等が率先して障害者を雇用する責務の明確化
- 「障害者活躍推進計画」の作成・公表の義務化
- 障害者雇用推進者・障害者職業生活相談員の選任の義務化
障害者雇用に関する書類の保存の義務化、対象障害者の確認方法の明確化、障害者活躍推進計画の作成などを通して、法定雇用率達成を目指しています。
民間企業
対して民間企業は障害者雇用が着実に進展しています。
現状
民間企業は各企業の努力の積み重ねにより障害者雇用は着実に進展しています。
障害者雇用者数は、15年間で過去最高を更新し続けています。
(平成20年: 32.6万人 ⇒ 平成30年: 53.5万人)
また、ハローワークにおける障害者の年間就職件数は、9年間連続で増加しています。
(平成20年: 44,463件 ⇒ 平成30: 102,318件)
課題
そんな民間企業の課題としては精神障害者の雇用者数がまだまだ少ないことです。
特に中小企業における障害者雇用が進んでおらず、実雇用率は全体 2.05%に止まっています。
課題をまとめると以下の通りです。
課題① 短時間であれば就労可能な障害者等の雇用機会の確保
課題② 中小企業における障害者雇用の促進
対策
- 民間企業の課題に対する対策は以下の通りです。
- 週20時間未満の障害者を雇用する事業主に対する特例給付金の新設
- 中小事業主(300人以下)の認定制度の新設
短時間で就労可能な障害者を雇用した事業主に対して特例給付金を与えたり、中小企業での認定制度を新設することにより法定雇用率達成を目指しています。
引用:厚生労働省 障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案の概要
障害者雇用促進法の改正
令和元年、障害者雇用促進法の一部が改正されました。
詳しくご説明していきます。
障害者雇用促進法改正の趣旨
令和元年、障害者雇用促進法が改正されました。趣旨は以下の通りです。
”障害者の雇用を一層促進するため、事業主に対する短時間労働以外の労働が困難な状況にある障害者の雇入れ及び継続雇用の支援、国及び地方公共団体における障害者の雇用状況についての的確な把握等に関する措置を講ずる。”
引用:厚生労働省 障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案の概要
障害者雇用促進法改正の概要
今回の法律改正での大きなポイントは2つです。
それは『障害者の活躍の場の拡大』『障害者の雇用状況についての的確な把握』です。
障害者の活躍の場の拡大
この法律は国・地方公共団体に対して障害者活躍推進計画作成を義務付け、率先して障害者を雇用するように努めさせました。
民間企業に対しては、週所定労働時間が一定の範囲内にある者を雇用する事業主に特例給付金を与えたり、障害者雇用の実施が善良な中小企業には認定制度を設けました。
障害者の雇用状況についての的確な把握
今回の改正により障害者の雇用状況を正確に把握するための措置も実施されています。
⑴ 厚生労働大臣又は公共職業安定所長による国及び地方公共団体に対する報告徴収の規定を設ける。
⑵ 国及び地方公共団体並びに民間の事業主は、障害者雇用率の算定対象となる障害者の確認に関する書類を保存しなければならないこととする。
⑶ 障害者雇用率の算定対象となる障害者であるかどうかの確認方法を明確化するとともに、厚生労働大臣は、必要があると認めるときは、国及び地方公共団体に対して、確認の適正な実施に関し、勧告をすることができることとする。
このように報告徴収、書類保存の義務化、対象の確認方法の明確化を行うことで雇用状況の把握及び障害者雇用の進展を目指しています。
引用:厚生労働省 障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案(国会提出準備中)の概要
障害者雇用促進法の改正のポイント
今回の障害者雇用促進法改正のポイントは3つあります。
それは『障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務』『苦情処理・紛争解決援助』『法定雇用率の算定基礎の見直し』です。
障害者に対する差別の禁止・合理的配慮の提供義務
こちらは障害者に対する差別禁止、職場環境での特別な整備を義務付ける要項です。
それでは、具体的な差別の例、具体的配慮の例をご説明していきます。
差別の具体例
【採用において】
身体障害、知的障害、精神障害、車いすの利用、人工呼吸器の使用などを理由として採用を拒否することなどが差別にあたります。
【賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用において】
- 賃金を引き下げること、低い賃金を設定すること、昇給をさせないこと
- 研修、現場実習をうけさせないこと
- 食堂や休憩室の利用を認めないこと
このような例にあてはまる場合は差別となります。
合理的配慮の具体例
【採用の配慮】
問題用紙を点訳・音訳すること・試験などで拡大読書器を利用できるようにすること・試験の回答時間を延長すること・回答方法を工夫することなどが合理的配慮にあたります。
【施設の整備、援助を行う者の配置の配慮】
- 車いすを利用する方に合わせて、机や作業台の高さを調整すること
- 文字だけでなく口頭での説明を行うこと・口頭だけでなくわかりやすい文書・絵図を用いて説明 すること・筆談ができるようにすること
- 手話通訳者・要約筆記者を配置・派遣すること、雇用主との間で調整する相談員を置くこと
- 通勤時のラッシュを避けるため勤務時間を変更すること
これらが具体的な合理的配慮の例にあたります。
苦情処理・紛争解決援助
もし事業主が上記の差別の禁止、合理的配慮を怠り、労働者から苦情が出た場合、個別労働紛争解決促進法の特例を設け、都道府県労働局長が必要な助言、指導又は勧告を事業主にしてくれること定めました。
法定雇用率の算定基礎の見直し
今回の改正では法定雇用率の見直しも行われ、算定基礎の対象に精神障害者も追加されました。
また、 法定雇用率は原則5年ごとに見直しすると規定されました。
『法定雇用率』と『算定基礎』について詳しくご説明していきます。
法定雇用率とは?
民間企業、国や地方公共団体などの事業主に対し、障害者の方の雇用を規定された率以上になるよう義務付けています。この規定された率のことを『法定雇用率』と呼びます。
【法定雇用率】
国・地方公共団体:2.5%
民間企業:2.2%
2021年までにこの法定雇用率の0.1%の引き上げが予定されています
算定基礎とは?
算定基礎は、自社の法定雇用率が法律を満たしているかどうかを計算する時に、そもそも対象となるのはどんな障害者なのか、ということを定めた規定です。
【算定の対象となる障害者】
- 原則として、週30時間以上の常用労働者(1年を越えて雇用が見込まれる者)
- 重度身体障害者、重度知的障害者については、1名を2名として計算できる。
- 短時間労働者の重度身体障害者、重度知的障害者は、1名として計算される。
- 短時間労働者の精神障害者については、平成30年4月から特例措置が設けられ、要件(※)を満たす場合は、1名として計算される
【要件】
①新規雇入れから3年以内または、精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内の場合
②2023年3月31日までに雇入れられ、精神障害者保健福祉手帳を取得した場合
算定基礎を理解することで、自社の法定雇用率の正確な計算を行うことができます。