2017年4月に予定されている消費税率の10%改定に伴い、いよいよ軽減税率制度の導入も始まります。さまざまな事務作業や申告計算においてまだまだ不明な点が多く、多くの企業の経営者や担当者は、不安を抱いているのではないでしょうか?
今回はこの軽減税率制度とは何かを、本年度の税制改正ですでに確定している規定を元に解説していきましょう。

軽減税率制度の概要

軽減税率制度は諸外国では、すでに当然となっている制度ではありますが、1989年の消費税導入以来、実に30年弱も単一税率による課税が行われてきた私たちにとって、初めての経験となります。
詳しい計算方法や事務手続きの説明の前に、まず、軽減税率制度そのものについて解説していきましょう。

軽減税率とは、2017年(平成29年)4月より改定される消費税率10%を標準税率として、一定の取引に対して8%の軽減税率を適用するというものです。
なお、一口に8%、10%といっても、その内訳は国税である消費税と地方税である地方消費税で構成されています。

その内訳は下表のとおりです。

平成29年3月31日まで
(単一税率)
平成29年4月1日から
軽減税率 標準税率
国税 6.3% 6.24% 2.2%
地方税 1.7% 1.76% 7.8%
合計 8% 8% 10%

軽減税率の対象取引については、「8%の据え置き」という表現を用いる報道なども多々ありますが、実際には平成29年3月まで適用される単一税率である8%と、平成29年4月以降適用される軽減税率である8%の税率とは内訳が異なっており、実務上、両者はまったく異なる税率による計算ととらえた方がよさそうです。

なお、海外ではすでにこの軽減税率を取り入れた税額計算を行うことが一般的になっています。例えば、ヨーロッパを中心に生活必需品に対して取り入れられています。しかし、この「生活必需品」の線引きが難しく、たびたび問題となっているのも現状です。

軽減税率の対象となるのは、どのような品目?

ここで、日本の消費税における軽減税率の対象品目を見ていきましょう。
軽減税率の対象品目は、以下のように規定されています。

  1. 飲食料品の譲渡(食品衛生法上の飲食店業の営業、喫茶店営業その他食事の提供を行う事業を営む事業者が、一定の飲食設備のある場所等において行う食事の提供を除く。)
  2. 定期購読契約が締結された新聞(一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する週2回以上発行される新聞に限る。)の譲渡

日本においては、「1」は飲食店以外での食料品、「2」は新聞を想定しています。これに関する線引きについて、さらに細かく基準が設けられています。順番に解説していきましょう。

軽減税率の対象となるのは、どのような品目?

1:飲食料品の譲渡

軽減税率の線引きで一番問題となっているものが、飲食料品の譲渡です。
まず、この飲食料品の定義として、「食品衛生法に規定する食品」であり、「酒税法に規定する酒類」を除いています。
ここで、食品衛生法に規定する食品とは、医薬品、医薬部外品を除くすべての食料品であるとしています。当初の案では、食料品のうち、生鮮食品のみを対象とするものとされていました。
しかし、大豆は生鮮食品に当たるが、大豆を発行させた納豆や味噌・醤油は加工食品であり、軽減税率の対象とならないなど、単に線引きが難しいだけでなく、調味料のような必需品であっても生活必需品とみなされないなど、運用に問題点が多く、最終的に加工食品も含む食料品全般となりました。ただし、飲食店での食事の提供を除いています。

生鮮食品、加工食品どちらもOKになりました。

しかし、それでも調味料として使用される「みりん」は、酒税法上の「酒類」に該当することから、標準税率であったり、医薬品や医薬部外品と判断がし辛い栄養ドリンクもあったりすることから、諸外国のように導入後には混乱を来すことが予測されます。

最も線引きが難しいと予測される飲食については、「テーブル、椅子、カウンター等の飲食用の設備がある場所で飲食料品を飲食させる役務の提供」と定義しており、概ね「商品の販売」に該当するのか?または「サービスの提供」に該当するのかにより、区分されています。具体的には次のような基準です。

標準税率(サービスの提供) 軽減税率(商品の販売)
飲食店 店内飲食 持ち帰り、出前
フードコート等 トレーなどで提供され、店内で飲食 持ち帰り用のパッケージなどで提供され、店内で飲食
自宅などでの飲食 ケータリング、出張料理等 弁当、ピザなどの宅配サービス
施設 学校給食、老人ホームでの食事 社員食堂、学食など

判断が難しいケースもあります。代表的な例としては、ファーストフード店などで「テイクアウト」として購入した商品を店内で食べるケースが挙げられます。消費税における取引の分類は、販売時に判断すべきものですから、この場合には軽減税率の対象となるでしょう。
このように施設の在り方や、商品の販売方法などを検討することにより、納税額が大きく異なることとなるため、事業者側の軽減税率に対する理解が重要です。

2:定期購読契約が締結された新聞

新聞に関しては、定期購読契約を前提としていますので、駅の売店やコンビニで購入する場合には標準税率が適用されます。また、新聞の内容に関しても「政治、経済、社会、文化等に関する一般社会事実を掲載する新聞」と定義しており、娯楽性が強いものは対象とされていません。しかし、ここにもどういった内容がこの定義に該当するのかという点が問題となりそうです。

新聞は配達のものは軽減税率が適用されるが、駅売店では標準税率が適用されます。

軽減税率に関する経過措置期間がある

軽減税率は、取引ごとに適用する税率を選択し、取引を行わなければならないことから、レジや会計システムに関する設備投資が必要となります。しかし、中小企業など、このような大幅な設備投資を行うことが困難な事業者があることから、平成31年3月までの2年間に関しては、一定の割合計算で申告税額を計算することができる経過措置を設けています。

経過措置は、「売上げに関する税額計算」で3パターンと「仕入れに関する税額計算」が2パターンあります。

1:売上げに関する税額計算の経過措置

下記のそれぞれの割合を売上高に乗じて計算した金額を軽減税率対象売上げとし、残額を標準税率対象売上げとします。
(1)10営業日の売上げを管理することができる場合
→連続10営業日における軽減税率と標準税率の売上高の比率で計算する方法

連続10営業日における軽減税率と標準税率の売上高の比率で計算する方法

(2)10営業日の仕入れを管理することができる卸、小売業の場合
→連続10営業日における軽減税率と標準税率の仕入高の比率で計算する方法

連続10営業日における軽減税率と標準税率の売上高の比率で計算する方法

(3)主に軽減税率対象品目を販売する事業者で(1)または(2)の計算が困難な場合
→売上げのうち50%を軽減税率対象売上げとする方法

売上げのうち50%を軽減税率対象売上げとする方法

売上げのうち50%を軽減税率対象売上げとする方法の図解

2:仕入れに関する税額計算の経過措置

(1)10営業日の売上げを管理することができる卸、小売業の場合
→連続10営業日における軽減税率と標準税率の売上高の比率で計算する方法

連続10営業日における軽減税率と標準税率の売上高の比率で計算する方法

(2)(1)の計算が困難な場合
簡易課税制度の即時適用が認められます。
簡易課税の選択は通常、前課税期間末までに行わなければなりませんが、軽減税率が適用される最初の課税期間については、その適用課税期間の末日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出することにより、簡易課税の適用を受けることができます。

※基準期間における課税売上高5,000万円以下の中小事業者以外も同様の措置が受けられます。

基準期間における課税売上高5,000万円以下の中小事業者以外も同様の措置が受けられます。

このような経過措置があっても、軽減税率導入後は売上や仕入に適用される税率をいかに正確に管理できるかが重要になってきます。
そのため、平成29年以降、「インボイス制度」と呼ばれる「適格請求書等保存方式」も始まります。軽減税率とインボイス制度は表裏一体の関係です。
次回、第2回では、この「インボイス制度」について解説します。

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